10年を経た今しか書けない曲

　2曲目に収録されている『綿毛』はエモーショナルな楽曲となっている。

「東日本大震災から10年経ったときに、私と同い年の10歳で震災を経験した子が成人したんだなと思って。それで、今、書くべきだと思って書いた曲が『綿毛』です。暗い部屋の中で、鍵穴くらいの光がさしているところに綿毛が入っていく映像が思い浮かんで。八方塞がりの状況に思えても、風の吹き抜けるところを知らせてくれるのは、綿毛みたいな小さいもののことが多いという視点を、日常生活に置き換えて書きました」

　坂口さんの歌詞と映像は切り離せない。

「曲を書くとき、映像を言葉にすることが多くて。一回、昔のCMを音無し状態で見て〝ここにBGMをつけるなら〟と考えて作ったこともあります」

『綿毛』は次第にエモーショナルになる。

「それも映像からインスピレーションを得たんですけれど、綿毛をカメラで追っていくと、どんどん上に昇っていって、曲が進むにつれて、ぱーっと開けていくようなイメージが広がって。最初はずっと弾き語りで歌っていた曲だったのですが、バンドバージョンになることで、遠くまで綿毛が飛んでいる雰囲気が出たのではないかと思います」

　現在、21歳の坂口さん。10代で知ってよかったと感じる価値観について聞いた。

「高校のとき、ある先生が〝おいしいものを食べる幸せより、おいしくものを食べる幸せを見つけなさい〟と言われていて。大人になるにつれて、お金も自分でかせぐようになるし、高いお金を出したら、それだけ価値のあるものを手に入れられますよね。でもその先生の言葉があったことで、お金ではなく自分の捉え方次第なんだと思えて。10代のときはひたすら友だちとファミレスのドリンクバーだけで何時間も語り合いましたけれど、そういうことが幸せだと感じていました。20歳を超えた今も、お金をかけずに得られる幸せを大事にしようと思えるので、この言葉はみなさんにも伝えたいです」