特に思い出に残っていることはありますか？

　フィルムカメラが好きなんですけど、撮影の合間に現地の子どもたちと一緒に写真を撮ったりしてコミュニケーションをとるようにしていました。キャストの方も、私と結城さんと尾野真千子さん以外はフィリピンの俳優の方々なんで、お話しするときは基本英語なんですけど、みなさん、どんなに私が文脈ぐちゃぐちゃな英語でも最後まで諦めずに話を聞いて、返してくれるから、なんとかそこで意思の疎通は取れていて。私が途中でタガログ語を話すシーンがあって。そこも音源だけ聞いて練習していたんですけど、実際にみなさんが練習につき合ってくれるだけでなく、「ここはもうちょっとこうしたほうがカジュアルで桃子っぽいと思う」ってアドバイスしてくれたり。あと、ごはんもみんなで一緒に食べるんですよ。キャストもスタッフも全員が揃って食べる。そういうときも料理の説明をしてくれたり、おすすめの観光スポットを教えてくれたり。そういうコミュケーションをとることができたのが印象深かったですね。

フィリピンは田辺さんにとってどんな国になりましたか？

　私の中では、自分と対話する場所です。フィリピンは自然もたくさんあるんですけど、都心部は常にバイクが渋滞していて、いつもだったら１５分で到着するロケ地に２時間かかったこともあって(笑)。車もハイエース５台で一列になって行ったりするんですよ。活気に溢れているから、静かな場所と騒がしい場所が入り乱れていて。その結果、自分がここにいる理由を忘れないように、自分自身が流されないようになりましたね。いろんな流れがありすぎて、揺れちゃいそうだから、自分をしっかり持ってないと自分じゃなくなっちゃうというか。それは桃子をやっていても気づいた部分でもあって。このままでもいいけど、このままじゃだめだよねって、すごく思ったんです。じゃあ、私はどうしたいんだろうっていうのもこの映画のテーマでもあるし、なんで自分がここにいるのかっていうのをすごく考えていたので、だから自分と向き合う場所だなって思いました。

この映画で伝えたいことは？

　私が大事にしていたのは、ヘタでも自分が納得するまで向き合うってことです。個人的な意見なんですけど、今ってSNSなどで連絡を取ることが多いので、直接伝えるということがすごく減ったと思うんです。この映画でいうと、自分が小さい頃に自分たちを置いて、自分の夢を勝手に追いかけた人。その人に会いに行かなきゃいけない。絶対に悔しかったと思うんですよ。自分を捨てた人になんで会いに行かなきゃいけないんだろうって。それでも、大好きなお母さんがこの人だったら助けてくれるって言うからって、お母さんが大切にして信頼していた人なのであれば、会いに行ってやるよっていう反骨精神に近いものもあったのではないかな。すごく嫌でも自分が納得するまで、自分に向きあったんだと思うんです。それってすごく大きいなって。話をすることが減ってしまった今だからこそ、やるっていうことにすごく価値があるんじゃないかなって思うんですよね。桃子の目線に立ったときの孤独感とか、よかろうが悪かろうが私は私なんだ、私はどうしたいかと考えた末の、フィリピンに行ってみるという諦めない気持ちには私も元気づけられたし、今にきっと必要な気持ちだから、そこがこの映画の意味なんじゃないかなって思っています。私も今までは壁にぶつかったときとか、割とすぐ泣いちゃうタイプで。あとは、一回冷静になるまで自分で考えてから話していたりしたんですけど。最近ではそこも取っ払って、どんだけ口下手でもいいからすぐに伝えることにしています。今言わなくていいやって思ったことって、後々になってふつふつと思い出して消えないじゃないですか。それって、やっぱり自分を犠牲にしているんじゃないかなってことにたどり着いて。それは自分に対して失礼だし、言わなくていいやってなったときに後悔するのは自分だから、たとえ相手に嫌われたとしても自分が後悔しないんだったら、言おうっていう考え方になりました。これはフィリピンに行って、桃子を演じてからそういう考え方になったんじゃないかな。やらない状態でいろんなリスクを考えるのはいくらでもできるけど、それで燻っているんだったらやって失敗しても後悔はない。この経験のおかげですごく強くなりましたし、失敗とかも怖くなくなりました。少し話がそれましたが、自分が思ったこと、伝えたいなと思ったことは、たとえ言葉がうまくまとまっていなくても、伝えてみてほしいです。それが、この映画の伝えたいことなのかなと私は思っています。